第二章

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病室に入ると、大翔はいつもの笑顔を見せた。 俺は思い切って切り出す。 「あのさ、例の精子凍結のことだけど」 「ああ!やったよ」 「え?」 「マジでお前の持ってきたエロ本役に立ったわ。でも持っとくのはオカンに見られそうで嫌だから、お前が病院の外で捨ててくれ」 そう言って大翔は諒太が渡したエロ本を出す。 受け取って俺は軽さを感じた。 「あれ、俺の写真は?」 「ばっか、お前の写真貼ってたらヌケないだろ。全部バリバリ剥がしたわ」 「ひでーな。俺の写真どうしたんだよ」 「めちゃ濃いの出たから拭くのに使った」 そう言って大翔は笑う。 脳内でピースをつなぎ合わせるように考えを巡らす。 つい先程、大翔の母親から精子凍結をするように説得してと頼まればかり。 だから絶対に今はまだしていないのだ。 なのに、大翔はもうやったと嘘を言う。 なぜ? 『病気じゃなくても結婚や子どもを持つことにならないって言うのよ』 母親の言葉が脳内でリピートする。母親は将来を諦めていると泣いたけど…。 そうじゃないって、大翔は前に言ってた。 エロ本をめくる。 諒太の写真を糊で貼った部分は破れていない。綺麗に丁寧に剥がされたようだ。 大翔の母親はクリアファイルを買ってくるように頼まれたと言っていた。 何を挟もうとクリアファイルを頼んだのか? 『お前といる方が楽しい』 そう言ってどんな女の子に言われても、大翔は付き合ったことはなかった。 俺はどうだった? 大翔が女の子に『今日携帯忘れた』詐欺をするたびに安心した。 バイトのシフト減らしても見舞いに来て、こいつの顔が見たくて。 俺は、俺らは…。 大翔のお母さん、ごめん。 「その精子凍結って金がかかるんだろ?」 「えっ?ああ…維持費みたいなのは必要らしい」 「じゃ、もう破棄しちゃえよ」 「え?」 俺は一呼吸おいて言った。 「俺の嫁になればいい」 大翔が俺を見る。 「は、何言って…キモい冗談…」 大翔の言葉が詰まる。 「冗談じゃないから。俺が嫁に貰ってやるから、もうそんなの気にせず、治療のことだけ考えろ」 大翔は何かを言おうとして、でも言葉は出ず、涙を流した。 今まで、検査の結果や入院の話しをするどんな時も泣かなかった大翔が、泣いた。 「…たい」 聞こえなかったので、大翔に顔を近づけた。 「生きたい。お前と一緒に生きたい」 「一緒に生きるに決まってる」
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