五線譜と向き合う人

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 金曜日、朝から昼までのバイト後は喫茶店に寄る。  そこは本を読んで良いと店側がみとめていて、となりには本屋みたいに様々な本が積まれている。そこから適当に一冊の本を手に取って、カフェラテを注文すると、適当に席を探した。  何回か通えばお気に入りの場所というのが決まってくるものだが、今どきの需要を満たすこの店はよく混むので、いつも同じ場所を陣取るのは難しい。  そんな事を考えつつ、窓際に目を向けると、いた。  前述した通り、本来は毎度同じ席を取るのは不可能に近いと思われるのだが、その人は窓際の陽がよく当たる席に必ず一人でいる。  読書が目当ての一人客が利用しやすい椅子ばかりの店内で、数少ないテーブルに紙を散らかしているのだ。  向かい合う席には誰もいない。 「ここ、座ってもいい?」 「……」 「ちょっと、あのう」 「…………」  それは無言の肯定でも否定でもなく、ただ作業に夢中なのか反応が無いだけ。誰の声も(多分)耳に入らないくらい、集中しているのだと思う。  それを満席で困っている時に知ってからは、こうして勝手にこの席を利用させてもらっている。他は知らないけど、目の前の大学生くらいに見える作業中の男と、俺だけは店内で常に同じ席を陣取る事が出来るレアな客だ。
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