101人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
1.ここ二か月の間の、何時もの週末
ワンルーム故にキッチンに置くしかない洗濯機が動く音が聞こえるのは、一週間振りだと梶谷航介は思う。
「航介さんは夜ご飯、何が食べたい?」
声も、洗濯機の音が流れてくるキッチンでする。
梶谷は答えずに、寝そべっていたコタツから這い出した。
ものの五、六歩歩けばコタツが在る居間兼寝室から、玄関に面したキッチンへと辿り着いてしまう。
「何でもいいよ。おまえが作るのはどれも美味い」
江利奈と違って。と心の中で付け足す。
昨年結婚し、今は妊娠五か月目の梶谷の妻・江利奈が作る料理は、ハーブやら聞き慣れない野菜やらを使った凝ったものが多かった。
健康に気遣うのは分かるのだが、やたらとヘルシーに特化しているのにはウンザリとしたものだった。
梶谷に急な転勤が決まった二か月前、妊娠が判ったばかりの江利奈を残していくのは不安だったが、こじゃれた草食動物のエサの様な食事を摂らなくてもよくなるのは、正直うれしかった。
食事は外食かコンビニ飯で十分だ。と思っていた梶谷の下に、大学へと通う為に、偶たま同じ街で独り暮らしをしていた江利奈の弟の遼太が訪ねてきた。
姉ちゃんに頼まれたから。と言葉少なに語った。
最初のコメントを投稿しよう!