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梶谷の部屋が在る地域では、可燃ゴミとプラスチックゴミとは異なり、缶・瓶ゴミは前夜から出してもいいことになっている。
それ故に換金目的で、独自で先に回収する者が後を絶たなかった。
もちろん違法行為だった。
遼太が集積所へと行くと、先客がいた。専用コンテナーへと空き缶を捨てるのではなく、折り畳み式のそれから拾い上げていた。
遼太の姿に気が付くと、逃げはしないまでも、その動きを止めた。
そう若くもない男だった。
年格好は全く違うというのに、遼太はとっさに梶谷を思い出した。
目の辺りがそっくりだと思った。
いやらしくて、卑しい目。
軽犯罪とはいえ、目撃者をどうしたものかと遼太の出方を窺い、動きを止めている男に向かって、遼太は缶と瓶とが詰まったゴミ袋を突き出した。
「やるよ。足しにしろよ。それとこれも」
ジーンズの尻ポケットからしわくちゃの一万円札も取り出し、袋の中へとねじ込む。
呆然とし、言葉も出ない男に遼太は構わず続けた。
「そんな端た金、いらねぇよ。くれてやるよ」
何時までも応えない男に苛立った遼太は、缶と瓶と、そして一万円札とが一緒くたになったゴミ袋をコンテナーの中へと叩き付けて、集積所を後にした 。
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