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妻の、江利奈の声を聞くのは何時以来だったか?
梶谷はとっさに思い出せなかった。
メールやLINEですら、江利奈のつわりがひどくなった最近では交わしていなかった。
でも、遼太とは話せるらしい。血の繋がりというヤツか、と梶谷は思った。
夫とはいえ所詮、自分は赤の他人だ。と改めて感じる。
「もしもし、遼太?何でスグに出ないのよ?今日の報告、遅いじゃない!」
自分にだけではなく、遼太にも全く変わらない高圧的な口調に梶谷は一瞬、言葉に詰まった。
すかさず江利奈の声がやや低く、早口で続ける。
「ねぇ、今日は何回、アノ人とヤッたの?どんな風だった?」
「!?」
反射的に梶谷は通話を切っていた。
その後、掛かり続ける「姉ちゃん」からの電話には一切出ずに、最終的には電源を切った。
全く黙らせた遼太のスマートフォンをテーブルの上に置き、梶谷はその場にへたり込んだ。
インターフォンが鳴った。
その必要をまるで感じなかった梶谷は、確かめもしないで玄関のドアを開けた。
案の定、遼太が立っていた。
「航介さん、ゴメン。寝てた?おれ、スマホ忘れたと思うんだけど・・・・」
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