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「うれしい?」
オウム返しをしながらも、梶谷は自分の言葉を疑い、信じられなかった。
自分の身代わりに、夫と寝るように弟に頼む姉。義理の兄のことを好きだからといって、その姉の頼みを聞き入れる弟。
二人とは全く血の繋がりがないとはいえ、自分には関係ない!とは梶谷は思えなかった。
梶谷の目の前で、江利奈の弟は、遼太は笑っていた。
梶谷は初めて見る、まるで大輪の花がいきなり満開になった様な、心からの、明るい笑顔だった。
遼太が言う。声までもが、別人の様だった。高く通り、華やかですらあった。
「姉ちゃんが知ってるから、許してくれてるから、おれは航介さんに触れてもいいんだって思ってた。例え、単身赴任中の間だけだとしても、姉ちゃんの代わりだとしても、うれしかった」
「遼太・・・」
咲き誇る花が音もなく雫を、涙を流した。
それでも花は、遼太は笑っていた。その花が項垂れる。
「でももう、ここには来ない。来れないよ。ずっと、騙していてごめんなさい・・・」
梶谷がやっと思い出したかの様に、掴んでいた遼太の手首を離した。
頭を顔を上げた遼太はその、梶谷の手に腕に抱きしめられた。
「航介、さん・・・?」
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