終章

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「全然いたくないよ」 「何か変だな、痛いな、と思ったらすぐに誰か大人に言うのだぞ」 「うん。分かった」 心配そうに高萩は見ていたが、屋敷からコハルを呼ぶ声がしてコハルが戻って行くと、少し名残惜しそうに見送っていた。 * * * * * * * * * * * * * * * * 尊仁(たかひと)親王の屋敷を出た二人が次に向かったのは、陽明門院(ようめいもんいん)の屋敷(梨壺)。 その途中で、とある主従と出くわした。 市女笠(いちめがさ)にむしの垂れ(ぎぬ)を被った姫君と、腰に剣を帯びた鋭い目つきの大柄な従者。 垂れ衣に隠れた表情はよく見えないが、立ち姿からなんとなく高貴な身分の姫君なのではないかと種臣(たねおみ)は思った。 「萩の宮様でいらっしゃいますか」 涼やかな声音で高萩に話しかけてきた。 「私、幸子(こうこ)と申します」 その名に覚えがあった。 後一条帝と御勝の方の長女・幸子内親王だ。 「先ほど主上(おかみ)にお会いして両親のこと、弟のこと、色々とお話を伺って参りました。貴方様には感謝してもしきれません」 深々とお辞儀をする幸子内親王。 「いえ、私共はなにも」 「離縁され弟と共に御所を出た母。私には二人の記憶はありません。ずっと一度でいいから二人に会いたいと思っていました」 幸子内親王の静かに声が響く。 彼女も一の君の事件で深く傷ついた一人だった。 「会うことは叶いませんでしたが、母と弟が御所を去ったあと、どうやって生きたのか知ることができました」
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