第一章 消えた姫君

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「う~寒っ」 隣でくしゃみをした男をチラリと見た。 「風邪でもひきましたか?」 「かな?少し悪寒がする」 そう言ってくしゃみをした男・晴時(はるとき)が腕を組んで縮こまった。 季節は秋から冬に移ろい、朝夕の冷え込みは少しづつ厳しさを増していた。 晴時に声をかけた男・種臣(たねおみ)が読みかけの書物を閉じると部屋を出ていく。 「いや~今宵は冷えるのぅ」 種臣と入れ違いに入ってきた男が肩をすぼめながらいった。 晴時が再びくしゃみをすると、男は無骨な声で笑う。 「何だ。風邪でもひいたか」 浅黒く日焼けした肌に白い歯を見せ、無骨な声の男・伸基(のぶもと)は豪快に笑う。 「日頃の鍛練が足りぬ証拠だ」 力強くバシバシと背中を叩かれ、晴時は『うっ』と声を飲んだ。 「鍛練ならやってるよ。どっかの筋肉バカと一緒にすんな」 「ん?誰のことじゃ」 「そりゃ、あん―――いてっ」 晴時の後頭部を衝撃が襲う。 「いってーな!お前」 頭をさすりながら晴時が振り向くと、右手に長剣を持った男が見下ろしている。 「泰親(やすちか)、お前後ろからの攻撃は卑怯だろ」 「お前は相変わらず親父殿への言葉使いがなってないな」
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