14人が本棚に入れています
本棚に追加
泰親は束ねた長い黒髪をなびかせながら、冷静な声でいった。
晴時は口を尖らせながら後頭部をさすった。
「む。この匂いは」
強烈な薬の匂いがして、伸基が鼻をひくつかせた。
戻ってきた種臣が、晴時の前に白湯を置いた。
「何コレ」
キツい匂いに少しのけ反りながら晴時が聞いた。
「薬湯ですよ。風邪の引きはじめにはよく効きます。飲んでおきなさい」
「え、やだ。いらない」
飲むのを拒むように晴時が薬湯の注がれた湯呑みを押し返す。
飲みたくないと子供のように嫌がるのを見て、やれやれと種臣は苦笑いする。
「良薬口に苦し、と言うだろう。コレを飲めば風邪など一発で治る」
「わっ、オッサンやめろって」
薬湯の杯を掴んで飲めと押しつける伸基と、その手を押し返して必死に抵抗する晴時が、揉み合うようにして小さな戦いを繰り広げていたまさに、その時――――
「!!」
四人が一斉に何かに反応し、動きを止めた。
静まりかえる室内。
微かに風の音がする。
辺りに漂う気配は先程までとは、明らかに異なる。
種臣は探るように耳をそばだて、注意深く回りを見る。
雲が流れ、室内に月明かりが射し込む。
(何か・・・・)
遠くの方からかすかに音がした。
あまりに小さな音で何の音かわからない。
種臣は縁側に出ると、音のする方向を探るように左右へと視線をさまよわせる。
「笛・・・・?」
「御所なんだし、誰かが笛を吹いてるだけだろ?」
同じように縁側に出た晴時が、そう言った。
確かに風流を好む殿上人ならば、笛ぐらい吹いていてもおかしくない。
おかしくない、のだが。。。
最初のコメントを投稿しよう!