第一章 消えた姫君

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(嫌な音色だ・・・・) 種臣(たねおみ)が胸に手をあてる。 聞いているだけで全身の毛が逆立つような、このおぞましい感じは何だ? 不快で憎悪を掻き立てるような、この音は。 まるで・・・・ 「まるで警告音だな」 耳に手をあて不快そうに泰親(やすちか)が言った。 そうだ、警告音だ。 単調な音。 単調な旋律。 明らかに殿上人が奏でる笛の美しい音色とは異なる。 この音色を聞いていると、頭の中がかき乱され、思考力を奪われるような気がする。 「警告音?いや、普通の音色だけど?」 晴時(はるとき)がおかしなことを言うなと首を傾げた。 その言葉に泰親がハッと目を見張る。 「・・・・これは幻術だ」 この笛の音が普通に聞こえる者と、警告音のように聞こえる者がいる。 警告音に聞こえる者は、この笛を奏でる者ーーーつまり幻術者と波長が合っているということだ。 「どうする?探すか?」 晴時が指示を求めるように種臣を見る。 「そうですね。まずは、音の出どころを確かめましょう」 種臣がそう指示すると、泰親が迷うことなく音のする方向へ歩きはじめる。 他の者もその後を追うようについていく。 ほどなくして、泰親が立ち止まる。 「ここは・・・・梨壺?」 泰親が立ち止まったのは、御所の一角・梨壺だった。 立ち止まって辺りを見渡すが、どこといって変わった様子はない。 あの笛の音はいまだに続いている。 この音がする限り、今どこかで何らかの異変が起こっているかもしれない。
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