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「まずは陽明門院様の安否確認を」
陽明門院とは、帝の義母君であり、この梨壺の主である。
「泰親は笛の音の出どころを可能な限り追跡を」
「承知」
「二人は御所で何か問題や異変がおきていないか確認してください」
今も聞こえる警告音のような笛の音。
御所でこの笛の音を聞いた者がいるならば、幻術者に思考や行動を支配されている者がいるだろう。
普段とは異なる言動をして、回りの者が「人が変わったようだ」と騒ぐだろう。
何か異変が起こっているであろうと、笛の音を聞きながら種臣は思った。
* * * * * * * * * * * * * * *
翌日、種臣の予想以上に事態は深刻だった。
「具体的な被害状況としては、梨壺の陽明門院様付きの小坊主、内大臣堀川邸の女童、梅壺の小姓が行方知れずとなっています」
種臣が上座に座る主・高萩親王に報告する。
晴時達の聞き取り調査によると、それぞれの場所でも笛の音がしていた。
種臣の予想では、行方不明者は更に増えると思われた。
同時刻に複数箇所で起きた失踪事件として、『若夜叉』が調査することになった。
「失踪者は十歳前後の子供です。不審者の目撃証言などがないことから、子供たちは自ら姿を消したと思われます」
「自らの意思で姿を消した、と?」
「状況的にはそういうことです。現在、子供の徒歩圏内に潜伏場所がないか調査中です」
「能力者の関与の可能性は?」
「事件発生時、笛の音がしており、幻術の類いであることは確認しています。御所の各所で同時多発的に発生しているため、能力者の関与は明らかかと」
「能力者の目撃証言はないのか?」
「ありません」
種臣の報告を聞きながら、高萩の表情は険しくなってゆく。
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