第一章 消えた姫君

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「まずは陽明門院(ようめいもんいん)様の安否確認を」 陽明門院とは、帝の義母君であり、この梨壺の主である。 「泰親(やすちか)は笛の音の出どころを可能な限り追跡を」 「承知」 「二人は御所で何か問題や異変がおきていないか確認してください」 今も聞こえる警告音のような笛の音。 御所でこの笛の音を聞いた者がいるならば、幻術者に思考や行動を支配されている者がいるだろう。 普段とは異なる言動をして、回りの者が「人が変わったようだ」と騒ぐだろう。 何か異変が起こっているであろうと、笛の音を聞きながら種臣は思った。 * * * * * * * * * * * * * * * 翌日、種臣(たねおみ)の予想以上に事態は深刻だった。 「具体的な被害状況としては、梨壺の陽明門院様付きの小坊主、内大臣堀川邸の女童、梅壺の小姓が行方知れずとなっています」 種臣が上座に座る主・高萩(たかはぎ)親王に報告する。 晴時(はるとき)達の聞き取り調査によると、それぞれの場所でも笛の音がしていた。 種臣の予想では、行方不明者は更に増えると思われた。 同時刻に複数箇所で起きた失踪事件として、『若夜叉』が調査することになった。 「失踪者は十歳前後の子供です。不審者の目撃証言などがないことから、子供たちは自ら姿を消したと思われます」 「自らの意思で姿を消した、と?」 「状況的にはそういうことです。現在、子供の徒歩圏内に潜伏場所がないか調査中です」 「能力者の関与の可能性は?」 「事件発生時、笛の音がしており、幻術の類いであることは確認しています。御所の各所で同時多発的に発生しているため、能力者の関与は明らかかと」 「能力者の目撃証言はないのか?」 「ありません」 種臣の報告を聞きながら、高萩の表情は険しくなってゆく。
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