第一章 消えた姫君

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「幻術にかかっている者はどれほどいる?」 「現在、幻術にかかっている者は確認できません」 「そんなはずは」 「幻術にかかった者は、全て行方不明となった子どもたちだと思われます」 そう言って高萩(たかはぎ)は動かなくなった。 高萩の眉間の皺が深くなる。 「失踪者の中に殿上人の身内の者はいないか?」 報告書に目を通しながら高萩が聞いた。 「確認作業中のためなんとも言えませんが、今のところ宮仕えの下級貴族や民間人ばかりです。ですが、失踪者が御所内に集中しているため、狙いは殿上人の誰かとみています」 「至急確認しろ。もし、現時点で失踪者の中に殿上人の身内がいないとしたら、今後も失踪者がでるだろう。狙いが誰かある程度の目星がつけば警護もしやすい」 「承認しました」 種臣(たねおみ)が座を下がろうと頭を下げると、高萩の声が呼び止める。 「種臣」 高萩の方を見ると、不安気な表情をしている。 「嫌な予感がする。早く失踪した子らを探しだせ」 高萩には、未来が見えたのかもしれない。 この失踪事件が、別の何かに発展していくと感じたのだとしたら。 高萩の表情を見て、種臣も不安に襲われた。 「承認しました」 そして、この時の高萩の不安は、数日後に現実となる。 * * * * * * * * * * * * * * * 「種臣殿。確認作業は終わったぞ」 その日の夕刻、報告書を携えた伸基(のぶもと)がやってきた。 種臣はすぐさま報告書に目を通すと、ある一点で目をとめた。
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