特効薬

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帰宅した老人は竹籠を土間に降ろして、腰に下げた野兎と大蜥蜴(とかげ)を老婆に渡した。草履(ぞうり)を脱ぐと真っ先に風呂へと向かった。一方少女は土間で老婆と共に取って来た食糧の下ごしらえを始めた。慣れた手つきで野兎の毛皮を剥いで、処理を進める。水の音と小気味よい包丁の音。眉一つ動かさない少女の隣で老婆は静かに山菜を洗っていた。 「何か悲しい事でもあったかい?」  不意に尋ねられて、手が止まった。兎の血に濡れる手は無機質な模型だった。温度も何も感じない。あの羽虫が気づかないのも当然だった。老婆は綿で出来た真っ白な前掛けで彼女の目元を拭い、それ以上は何も聞かなかった。
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