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「……分かった」
じゃあ、次ね、そうささやいて、でも離れがたくて、膝をついて十夜の体を包み込む。温かい。もう二度と、触れられないと思っていた体だ。
奇跡みたいだ。
途切れたと思った道に、先があった。分かれたとあきらめた道がまた、つながった。
どれほどの奇跡だろう。
「えっと、じゃあ。これからも、よろしくお願いします」
月並みですけど、と照れくさそうに十夜は言った。顔を見たかったけれど、きっとぼくはひどい顔をしているだろうから、十夜の頬に頬をつけたまんま、動けなかった。
「こちらこそ」
情けなく震えた声は、十夜の耳に届いただろうか。不安になって、ようやく体を離して顔を覗くと、十夜は幼い子供みたいに無防備に笑っていた。
「おじさん、真っ赤だ」
「十夜こそ」
今になって恥ずかしさがこみ上げて、拗ねたように口をとがらせると、十夜はまた笑った。窓の外にはすこしけぶった夜空があって、笑った口元みたいな三日月が浮かんでいた。
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