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「は?」
便器に頭を預けたまんま、おれは言った。びっくりするほど声がしわしわだった。
「ゴミが、いっぱい落ちてて。ビニール袋とか缶とか、紙とか。で、それが、流れ出ちゃったら、ほら、川とか海とかに悪いかなって」
「だからガムテープ貼ったのか?」
そう。うなづくと警官はなんにも言わなかった。ちょっとしてから、警官はバカだなって言って、そうしてまた俺の腕をつかんで立たせてくれた。手洗い場で口をゆすぐと、少しだけ生き返った気がした。
「バカかなあ、おれ」
「ていうか、ゴミは拾えばよかったんじゃないか?」
「ひろう?」
「ゴミ拾い。やるだろ、1回は。小学校とかで」
「拾ってどーすんの」
「そりゃおまえ、捨てるだろ」
「すてるの」
捨てる、のはちょっとできないかなあ、そう言うと警官はまた眉間にシワを寄せて、ゴミ袋なら無料で配ってたんだぞ、駅前で、なんててんでとんちんかんなことを言い出す。そうじゃないんだ
「ひろって捨てられればよかったのになあ」
みるみるたまっていくゴミを拾うことも捨てることもできなくて、ぼうぜんと見ていた。汚い地面にかなしくなったけど、どうしようもできなくて、けれどそれが外に流れちゃうのだけはダメだって分かってたから、だからガムテープを貼ったのだ。
「何の話かはしらんけどな」
ぬれた口元を袖口でぬぐっていたら警官がポケットティッシュを突きつけてきたので、ゆるキャラの描かれたそれをありがたく受け取り、口と手をふいてついでに鼻もかんで、くるくる丸めてポケットにつっこんだ。
「ガムテープ貼られると困るんだよ。水があふれて洪水になっちまうだろ」
「それは大変だ」
「大変だろ。だから、はがしてくれるか」
俺はうなづいた。洪水は困る。きっとみんな苦しい。
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