10月の霹靂

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「じゃあ身分証だして連絡先書いて。明日中に全部はがしてくれれば、今回はそれでいいから」 「はい」  保健室の先生みたいな言い方に、おれは小学生のような返事をして、差し出された紙に名前と住所を書いた。 「ゴミがな、捨てられないならな」  探るようにそっと、警官の声がした。緊急連絡先は迷ったけど、結局おじさんの携帯番号を書いた。空欄をつくるとおにーさんを困らせそうで、優しいおにーさんを困らせるのはイヤだった。 「誰かにあずけるといいんじゃないか」  おれは顔をあげた。おにーさんは手元のバインダーを見て、けれどボールペンは全然動いていなかった。 「あずける」 「うん。あげるとかでもいいのかな。どうするかは相手に任せる、とか」 「ゴミは、あげらんないでしょ」  ポケットの中のティッシュをこねながら、おれは笑った。 「おまえにとっちゃあゴミでも、相手にとってみればさ、ゴミじゃないかもしんないだろ」  おにーさんは不思議なことを言った。意味が分かんなくておにーさんを凝視していると、へんな空気が漂った。急に大きくため息をついたおにーさんが、ボールペンを持ったまま頭をかきむしった。どうやら慰められていたらしい、とそこで気づいて、とたんに尻を筆で撫でられているような、気恥ずかしさがおそってきた。 「あの、でも、そうかな」 「ま、分からんけどね」  書いた? と聞かれ反射で紙をつき出す。目を細めて読んだあと、よし、とおにーさんはわざとらしく声に出した。 「あの、おにーさん」 「ん?」 「ありがとう、ございます」  むずむずがピークに達しながらもおれはがんばってお礼をした。おにーさんはちょっと驚いてから、ちゃんとガムテープはがせよと笑った。そこに青い制服を着たおっちゃんが駆け込んできた。おにーさんになにか耳打ちすると、おにーさんはにやりとおれを見た。 「お迎えだ」
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