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「おれ、ずっと分かった気でいたんです。おじさんとの生活が大切で、大切で、いつか離れる日が来るだろうけど、でも大丈夫、離れる覚悟はできてるからって思ってて。けど、だからそれまでは、どうしても、少しでも長く一緒にいたくて――生活を、環境を変えたくなくって、それであの時、嫌ですって言って」
苦い記憶に、ぼくは体を固くした。でも同時に、納得もした。そういうことだったのか。
「でもいざ、引っ越しが決まって、この家が消えるってなったとき、すごく、すごく嫌で……ずっと覚悟してたつもりだったのに、自分でもびっくりするくらい、いやで。おじさんを傷つけてまで、変えたくないって固執して、期間限定だからって甘えて、タイミングが来たらちゃんと手を放すからって、そう思ってたのに、いやで」
十夜の手は震えていた。
「だから、ひとりでここに住んでみようって思ったんです。おじさんの居ないこの部屋で、ちゃんと納得して、もういないんだ、ってケリをつけようと思って、でも」
彼はそこで、手をひらいた。両手をみつめている目のふちは、赤く染まっている。
「でも、できなかった」
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