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「こっち?」
鼻先をすりあわせながら聞いた。十夜はうるんだ瞳で口をあわあわと動かした。
「とおや、かわいい」
「かっ?!」
「かわいい、うん。すごく」
たまらなくなって、細い体にうでを回す。肩口に額をつけて、体全体で十夜を抱きしめると、慣れた柔軟剤がふんわりと香った。おずおずと、十夜の両腕がぼくの背中をのぼって、まるでしがみつくみたいにぎゅっと抱き返される。
たまらなくて、もう一度キスがしたくて、十夜の顔を見つめようとしたら、今度は逆に、十夜がぼくのかたに顔を埋めた。仕方なく、あらわになったうなじに唇を寄せたら、ばね仕掛けみたいに勢いよく顔を起こす。
「なっ、なに?」
「だって、逃げるから」
「こ、これ以上はムリです!」
心臓止まる、十夜は真っ赤な顔をしたまま、後ずさった。一歩、近寄ると一歩逃げる。そのまま窓際まで追い詰めて、十夜はずるずると窓伝いに座り込んでしまった。
「ほんと、無理です」
「……そう無理無理言われると、傷つくんだけど」
「つ、つぎ! 次回で!」
だからもう、勘弁してください。
それは思ってもみない言葉だった。
ああ、そうか、次があるのか。
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