もう天使ではいられない 番外編 運命

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まだ手のひらがジンジンしてる。 「これで冷やしたらエエわ」 夫が缶のコーラを握らせてくれた。 「ピアノは無事や、業者に連絡ついた」 「よかったあ!私、葵ちゃんに  電話してくる」 舞ちゃんはスマホを片手に表へ出て行った。 「弁護士の高井がアンジョウ(巧く)  してくれてる」 半年前に死んだ幼な友達・祥子の娘の 舞ちゃんから 「お母ちゃんの大事なピアノを 『お父ちゃんの女』が売ってしもた」 と電話があったのが夜7時前で今は10時。 高速SAは静かやった。 「噂には聞いてたけど、なあ、ハハハ  ナカナカの迫力やったな、ハハハ」 「何が?」 「バシバシバシバシバーン!!やで」 夫が平手打ちを大げさに 表現して笑いこける。 「たいそうやな、ちょっと叩いただけです」 「あれがちょっとぉ?  せやったらプロレラーになれるで」 また大笑いして 「高井から電話や」 喫煙室へ入って行った。 紅くなった手のひらを見る。 (たかが半年で女、連れ込んで、  男ってほんまにアホやな、祥子) 舞ちゃんの家に着いたら、テレビの前で 女が寝転んでた。 見た途端、馬乗りになって叩いてた。 (バシバシバシバシバーン・・・  なあ、そうかも) 思い出し笑いが漏れた。 (昔のカンって錆びないんや) ちょっと中学校の時にグレてて、体が大柄やから喧嘩はお手のもの。無免許原付バイクで走ったりもしてた。 (おんなじこと、あったなあ、祥子。  私のお父さんもお母さんが死んでから  女を連れ込んで・・・) 寒い日やった。家へ帰ってきたら、女がお姉ちゃんの髪を掴んで鋏でギザギザにしてた。一瞬でカッときて、女の首を片腕に挟んで引き連って池に放り投げてた。這い上がろうとする女を何べんも何べんも(何度も何度も)足で池に蹴落とした。お姉ちゃんは黒い長い髪をみんなによく褒められてた。私も好きな、死んだお母さんにソックリな髪。女の叫び声で近所の人がやってきて抑えこまれて正気になった。お姉ちゃんと祥子が泣いて震えてる隣でお父さんがボーとツッ立ってた。 それからお父さんはまた昔のマジメな面白いお父さんに戻ったし、私もグレから卒業した。 (佐伯さんはどうやろか?眼が覚めるかな) 祥子と佐伯さんは同級生で共働き。42歳まで普通にやってきた。なのに祥子が癌になってあっけなく死んで (エラい(大変な)変わり様やな) こんな事態になってしまった。
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