794人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、頼子の目を見つめながら、ようやく、
「……うん」
と返事をすることができた。
「あ、ちょっと待ってね。もし殿村くんが好きとか言われたら、さすがに困るけど。それに応援しようも……」
眉間を押さえ、本気で悩んでいる素振りの頼子に、ふっと心がほどけると、
「何? 俺が何って?」
と、渡り廊下から声が聞こえる。
振り返ると殿村くんがいて、
「いやー、やっぱ男前だな、今町は」
と腕組みをして感心しながらこちらに向かってきた。
「うわ、最悪。ほら、こんなふうに平気で盗み聞きできるような男、ろくな男じゃないわ。和奈、こんなヤツに想いを寄せるなんてバカなことは……」
「違うの」
聞いてほしい。私は、初めてちゃんと頼子に相談しようと思った。
「殿村くんじゃなくて、央寺くんが好きなの、私」
固まる頼子と殿村くん。
その後「へぇ」と言って面白そうに微笑んだ殿村くんの隣で、頼子が、
「央寺って……誰よ?」
と顔をしかめた。
最初のコメントを投稿しよう!