794人が本棚に入れています
本棚に追加
今になって手が震えてきて、胸の上でその手を重ね、きゅっと握る。ほかにお客さんがいないかと周りを見回すけれど、誰もいなかった。
「あの……でも……」
「つーかさ、店を出てもいないのに、そんないちゃもんつけてくるってどうなの?」
一歩後ずさると背後はもう棚で、頭が陳列されたケースに当たった。ずいっと顔を覗きこまれ、私は首をすくめる。
「客をバカにしてんの?」
至近距離で睨んでくる男の目を見て、背筋が凍ったかのように動けなくなってしまった。
「……あ……」
どうしよう……怖い……。誰か……。
「お客さま。失礼ですが」
その時、男の背後から声が聞こえた。
肩に手を置かれ、
「あ?」
と言って振り返る男。
そして、その肩越しに、真剣な顔をした央寺くんが見えた。
最初のコメントを投稿しよう!