前後不覚

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買ったペットボトルを渡すと、匡は頭を下げて受け取った。 ふと思う。自分も……中学生の頃の記憶が曖昧だ。 頭を軽く押さえ思料する。ここ最近の記憶が混濁しているのは白露と出会ってからで、中学時代のことは関係ない。特に意識もしてなかったけど、疑念と不安が膨らんでいく。 あの世界は、少しでも滞在すると記憶が失われる。こちらに戻った時に白露の顔を忘れていることが何よりの証拠だ。 「清心、さん」 「ん?」 名前を呼ばれて振り返る。胸元でとまっていた視線を徐々に上へと向ける。見れば、彼は優しく笑っていた。 「どこかで聞いたことある名前だと思うんですけど……やっぱり思い出せない。でも、綺麗な名前ですね」 綺麗な名前。 あぁ、それはつい最近も誰かに言われた。 「……ありがと」 前後不覚ということにしたい。 全然酔ってなんかないけど、都合よく解釈して、この夜を自分のものにしたい。甘ったるい味に変えて貪りたい。 そう思ったら一歩前に踏み出して、彼の唇を奪っていた。 「ん……っ」 耳鳴りが起きる。 自分にしか聞こえない警鐘が鳴っている。 道徳が壊れる。理性が弾ける。「やめろ」と思えば思うほど、身体は勝手に動く。 「なぁ。抱きたい」 口は勝手に言葉を吐く。本能剥き出しの、醜い言葉を。 いっそこの口を塞いで、殴って突き飛ばしてくれたら諦めもつくのに、彼は静かに頷くだけだった。 何故こんなにも惹かれる。 「……あっ!」 ホテルへ向かい、彼をベッドに押し倒した。 そこまで欲求不満だったわけじゃない。最近は白露と会えば必ずシていた。 けど今は熱を抑えられない。一体、身体のどこにこんな欲望が眠っていたのか……自分で自分が恐ろしくなる。 匡の熟れた性器にむしゃぶりつき、固い入口をこじ開けた。初めてではないらしい。求められたら応じる、だらしのない身体。しかしそのぶん繋がるのも早い。あっという間に卑猥な糸を垂らした。 「……あは、入った。キツい?」 「ん、んん……っ……」 匡は目に涙を浮かべ、首を横に振った。相当な痛みを伴ってるはずだが、唇を噛んで必死に堪えている。その様子がいじらしく、底無しの加虐心を煽る。 「あっ、あぁ、あっ! やぁっ、激し……っ……!!」 震える彼の腰を抱き抱え、激しく何度も奥を突いた。暴きたい。彼の隠された素顔が見たかった。
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