前後不覚

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普段無表情の彼も抱いてる間だけは別人になる。 仰け反り、いつもの倍は大きな声で喘ぐ。瞳の色を変える。まるで命を与えてるようだった。……なんて、高慢にも程がある。浅ましい思考に自嘲気味に笑った。 「中、すごい熱い。それにすごく柔らかいよ。気持ちいい?」 「ひっ、あ、あぁ……待って、早い……っ!!」 彼は異常なまでに感じて、だらしなく唾液と先走りを垂らした。気持ちいいのは間違いない。さっきからずっと、彼のペニスは脈を打つように揺れることがある。逃げられないように覆いかぶさり、一気に最奥部まで突いた。 「やらしー身体。駄目だよ、こんなんで簡単に男に股開いたら。……今日みたいに食べられちゃうって」 ゴムの中で射精した。快感を彼の中に吐き出した。汚した、という結果だけが頭の中にまとわりつく。 「お待たせ。イかせてあげるね」 軽くキスした後、彼のペニスを扱いた。それほど時間もかからず、掌の中に熱いものを感じて手を離す。見ればピュッピュッ、と白い液体が先端から吹き出ていた。 それを擦りつけるようにして、全体をこねくり回す。わざと音を立てて弄っていると匡は恥ずかしそうに顔を逸らした。 「顔見せて。イッた顔見たい」 「やっ、やだっ……あっ!」 嫌がる彼の腕を掴んで、無理やり組み伏せる。 自分が上になる、わずかな時間。支配、征服、蹂躙……良くない単語ばかり頭に浮かぶ。 それでもやめられない。やめられるほど、自分は正しい人間ではない。 「可愛い」 自分の下で息を乱す青年は、居心地悪そうに身をよじった。そして逃げようとしたけど、やっぱり押さえ込んで後ろに指を挿入する。 「ひゃっ!? や、や、っ……やだ、もうや……!」 「何で? まだ硬いじゃん」 指を抜き差ししながら、彼の反り返った前を握った。こんなにやらしい身体でウブなふりをしていたとは。けど、彼はもっと不可解な台詞を吐いた。 「やだ……も、見ないで……恥ずかしい……っ」 すでに散々恥ずかしいことをしてるのに、何を言い出すのか。分からないからもっと快感を与えてやった。 恥ずかしいだのなんだの言いながらも、ちょっと可愛がれば簡単に脚を放り出して絶頂へ達する、滑稽な青年。 けど一番滑稽なのは、彼をこんな姿にしている自分。わかってる。 やがてシーツに突っ伏す彼を抱きしめ、眠りについた。 その直前に見えた。 時計の針は、十時十分を指していた。
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