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行方知れず
覚醒後は倦怠感も欠伸する。ゆっくりと目を覚まし、身体の中を蹂躙していく。
翌朝、清心はシャワーを浴びてそのまま帰宅した。
匡と電話番号だけ交換した。これで晴れて、彼とはいつでも会える便利な友人となる。
でも新しいアドレスを登録するたびに失うものは何なんだろう。
考えたらキリがない気がして、スマホをソファの上に投げた。
匡の柔らかい肌、熱い飛沫を思い出す。
あんなに相性のいい男を抱いたのは初めてかもしれなくて、下半身が疼いた。
もちろん白露もいい。だが彼はまだ未成熟だ。抱いてると罪悪感が募るし、あそこも狭くきつい。
「はぁ! もう、やめだやめ!」
セックスのことばかり考えてる自分に吐き気がしそうだ。二十五歳、社会人三年目。特に趣味もなく考えるのは男の身体ばっかりなんて。ほんと、匡じゃないけどパチンコに行く方がまだマシだ。
そう思って、気晴らしに一円パチンコへ行くことにした。三時間、買ったり負けたりの攻防戦。結果的には三千円買った。買った……とも言えない戦果だが、一時間千円のバイトをしたと思うことにしよう。
景品のお菓子片手に、自販機でコーヒーを買う。河川敷に降りて、ランニングする人や犬と散歩する人達を眺めた。
こんな何気ない日常が退屈で、どうしようもなく幸せだ。
本当なら結婚していく友人達のように何か行動した方が良いのだろうけど……自分は一生、独り気ままに生きてくのも向いてるかもしれない。
いっそ田舎へ越してみたい。そんな無計画な願望も妄想する。青空の下なら、いくらしても許される気がした。
それこそ中学生のときはかなり非現実的な妄想に耽っていたと思う。絶対に人には話せないような妄想を……。
……あれ。
そこまで考えて、違和感を覚える。
嬉しいことから悲しいことまで、たくさんあった中学生の思い出。それが不思議なことに、全然思い出せない。
尋常じゃない恐怖に駆られた。脇目も振らずに家まで走った。何で、どうして。
────自分の通っていた中学校の名前が思い出せないんだ。
自宅の鍵を締め、荷物を放り出すと急いで物入れの中を漁った。早く安心したかったからだ。ずっと奥に眠っている、埃だらけの卒業アルバムを引っ張り出して、中学校の名前を確認する。
あぁ……!
表紙に書かれている学校名が一番に目に入る。馴染みのある名前が分かってホッとした。
それと同時に項垂れる。こんな事すら忘れるなんて、一体どうしてしまったんだろう。
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