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彼が告白してくれた“あの日”。
走り去る彼の後ろ姿を見て、ようやく自分のしたことの愚かさに気付いた。謝らないといけない。許してもらえなくてもまずは彼に謝りたい。
無我夢中で追いかけた。けど大きなスクランブル交差点に入ったとき、あまりの人の多さに彼の姿を見失ってしまった。
午前だったと思うけど、はっきりした時間は覚えてない。ただあの十字路の真ん中で立ち尽くした記憶がある。
結局その日は彼を見つけられずに家へ帰った。
それから、彼は俺を避け続けたんだ。学校にも来なくなった。進路はどうするのか気になって担任教師に尋ねたこともある。けど詳しいことは何も教えてもらえず、卒業式を迎えた。
そしてやはり、卒業式にも来なかった。
「俺……最低だ…………」
窓の外を呆然と眺める。
突然強い雨が降り出し、窓を激しく叩きつけた。まるで外へ出ろと言ってるようだ。
自分には罰が下るかもしれない。
人をひとり殺したような気分だった。自分を守った代わりに、親友を殺した。同性愛者であることを打ち明けて、学年中から苛められたあの少年のように。自分は確かに同じやり方で、ひとりの人間を殺したんだ。
それなのに今は彼を忘れて、自由奔放に生きて、好きな男と遊んでいる。
これは罪だ。
心の中で荒れ狂う嵐は外の轟音と重なって、四畳半の世界を壊してしまいそうだった。
休日、午前の十時。
清心はまた、あのスクランブル交差点に来ていた。
信号待ちをしながら腕時計と車の列を交互に見る。その間、少しだけ昔のことを思い出していた。いつも可愛らしく微笑むあの少年を。
『秦城、知ってる? 一本道って怖いんだよ。どこまでも一直線に続く道には世界ができてるんだ。その世界には必ず魔物や怪異が住んでるから、通るときは気をつけないといけない! 他人の家に土足で上がるのと同じことだから』
親友は、そんな馬鹿げたことを言っていた。
彼は言わばオカルトマニアで、図書室ではよく変な事典を読んでいた記憶がある。当時の清心には何が面白いのかまったくもって理解不能だった。
『十字路もとても危険。世界中どこにでもあるけど、分かれ道ってのは運気を変えるし異世界にも通じてるからね』
『異世界?』
『行けるかもよ。そうそう、十字路ならどこでもいいんだ。別に大きなとこじゃなくてもさ……基本どこにでも、不可視の入口が存在してる』
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