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「王手」
「……あ」
「やった。初めて勝った……央寺くんに」
店長に借りた将棋盤で対局した結果、私は初めて央寺くんを負かすことができた。思いのほか嬉しくて、もう一度「やったー……」と両手で拳を握って勝利をかみしめる。
お昼休憩時間の今、私たちはふたりでスタッフルームにいた。冬休みに入り、さっそくピンチヒッターとして呼ばれた央寺くんは、倉庫作業だったからか初めて休憩の時間が重なったのだ。
「飛車角抜きのハンデ付きだけどね」
そういいつつも、テーブルに頬杖をついている央寺くんは悔しそうだ。いつも電話だったから、こうやって実際に面と向かって対局したのも初めてで新鮮だった。
「合同練習、続いてるんだよね? たしか冬休みいっぱいだって言ってたし」
「続いてるよ。殿村がしょっちゅう絡んできて面倒」
目に浮かんで笑ってしまう。ふたりは案外、いい友達になれるのかもしれない。
「あ。母親が、ありがとうって」
「何が?」
「あのお守りストラップ」
将棋盤をたたみ、駒を箱に片付けながら話す央寺くん。
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