chapter 0. オウルとカナリア

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 男が滅んでから暫くは、冷凍保存していた精子を使った人工授精によって子を産んでいた。  やがて女性の遺伝子から精子と同じ役割を果たす細胞を生成することに成功し、ひと同士のあいだに子どもをつくることが再びできるようになった。  男がいなくなれば恋愛という概念がなくなるというわけもなく、昔は少数であったらしいが、女しかいない現代では同性愛は当然で、というか同性とか異性とかそういった言葉ももはや死語であり、この200年のあいだに、女だけの世界は女が生きやすいように、社会もひとそのものも上手いように変容していた。  ひとは当然にひとに恋をする。性の区別がなくなった我々にとって、目下問題なのは友情と愛情に区別をつける必要ができたことだった。  まあ、そこの話は置いておいて、愛し合う以上それに伴う行為が発生するわけだが、対になる生殖器がない以上、ひと同士の生殖で子を孕むことはまずありえないのだが……。 「どうやって? その話本当?」 「本当よ。ニュースでも取り上げられているわ。最近セックスで妊娠するケースが増えているって」 「ええ~。こわっ」 「120年振りのことだそうよ」 「でしょうね。正確には人類始まって以来初めてのことだろうけど」  しばらくテレビを見ていないあいだに、世の中が大変なことになっていた。オウルは衝撃を隠しきれなかった。 「え、まじで? どういうメカニズム? どうやってんの?」 「わからないわ」 「100年かそこらでそんなに都合いい進化しないだろ」 「同感ね」 「なんだ、その3年の先輩とやらにはちんこがついてんのか?」 「ついてないと思うけれど……」  首を傾げ、カナリアは訊いた。 「昔の男は、ちんこで生殖していたのよね?」 「うん」 「どんな風に?」 「説明するのが難しいな。う~ん、イメージが湧きづらい……」  教材にも男の文献は少ない。 「男が滅んだときに、死体もまともな状態で残んなかったから、本物の標本は一つもないんだよな。流石にレプリカでも、学校にはないだろうし……」  我が純白のノートに図を描いてやろうかとも思ったが、形状を詳しく覚えていない。間違ったことを教えるわけにもいかない。 「う~ん、あ、そうだ。源氏物語読みなよ」 「読めないからいま教えてもらっているんじゃない」 「そうでした」
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