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「アダムに、会ってみたい」
「……アダムに?」
「うん」
あの、怪人に。
軍人となれば、当然国を防衛するために、どこからともなく現れるあの怪物どもと戦うことになる。
死体しか扱えない研究者よりもずっと近くで、生身のヤツらと相対することができる。
「……なんで会いたいのかは、訊いてもいい?」
「別にいいよ。でも、不謹慎だから、誰にも言うなよ」
「言わないわ」
「昔、間近でアダムを見たことがある。大きくて強くて、ただただ恐ろしくて――でも、神秘的で、美しいと思った。もしも対等にあれと向き合えたら――何か、わかる気がするんだ」
見えないものが見える気がする。
こんなことを言ったら笑われると思った。でも、カナリアは笑わなかった。
逆に、カナリアは意外な返しをした。
「実はわたしもね、アダムに会ってみたいと思ってるの」
「……へぇ」
「生物学を専攻しようと思ってる。アダムの研究をしてみたいの」
「……そうか」
「理由は訊かないの?」
「……ならどうして?」
カナリアが答えなかった。カナリアが目を合わせないと喋らないつもりだとわかって、オウルはちょっと間を開けてから、ちらっとカナリアのことを見た。
するとカナリアは、自嘲気味に笑った。
「わたしもアダムにとても興味があるの。嘘じゃないのよ。あなたの話を聞くと、確かに美しいかもしれないなんて思うくらいには、アダムのことを知りたいの」
可笑しそうにほほ笑んで、カナリアはオウルに言った。
「男のことを教えてもらうほどにね、こういうことはあまり言っちゃいけないけど……あなたのこと、『男みたい』だって思ったわ」
「………」
「言わないか迷ったんだけど、あなたなら許してくれると思って」
オウルは教室のドアの方を振り向き、歩き出した。カナリアの声が背中を追った。
「……怒った?」
「いや、別に」
ドアに手をかけて、オウルはカナリアのことを振り返った。オウルは歯を覗かせて笑った。
「でもそれ、死語だぞ」
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