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タバコをしまうと、オウルは空を仰いで深く息を吐いた。
「はぁ~。じゃあ、いま言うよ」
オウルはカナリアに手を差し出した。カナリアはにこっとほほ笑み、握手を交わした。
「博士号おめでとう、カナリア」
「中尉だったわね? あなたも昇進おめでとう、オウル。副隊長ですってね、凄いじゃない。会えて嬉しいわ」
傷だらけのゴツゴツしたオウルの手をさすると、カナリアの顔が曇った。薄くほほ笑んで、カナリアは訊いた。
「オウル」
「なに?」
「アダムと戦って、沢山殺した?」
「ああ、何体も殺した。本当は記録しないといけないけど、もう暫く数えてない」
「そう。……ねえ、オウル」
「なに」
「人を殺したことはある?」
一瞬だけ逡巡してから、オウルは答えた。
「あるよ」
「そう」
「………」
「つらかった?」
「いや」
オウルは瞼を伏せた。その先に映る見えない景色に思いを馳せて、オウルは言った。
「何もできないことの方が、つらい。それなら、間違っていても何かしていた方がいい」
「……そう」
やっぱり、変わった。
昔は何もしないで窓の外を見ていたのに。
いや、でも、本当は。
ずっと、あの教室から出て、誰かのためになにかをしたかったのかもしれない。
だから、ずっと、外を眺めて――。
「これは、大した話じゃないんだが」
自分と違い、傷一つない綺麗なカナリアの白い手を指で撫でて、オウルは独り言のように言った。
「昔……下半身に重傷を負って、死にかけたことがある」
「………」
「軍に腕のいい医者がいて、なんとか命は助かった。傷も今じゃなんともない」
「そうなの」
「だけど……子どもを産めない体になった」
カナリアの手がぴくっとした。オウルはカナリアの手を離した。
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