chapter1-2. エデン

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 カメラを取り付けた端末を使い、アダムの卵を観察しながら、カナリアはずいずいとエデンの奥へ足を踏み入れて行った。オウルはその後を付いて歩いた。小言の一つでも言ってやろうかとも思ったが、カナリアの真剣な顔つきを見ると、喉まで昇っていた声がおさまってしまった。  カナリアは端末に映したアダムの卵を注意深く観察しているので、カメラに映らないためにオウルは僅かに距離を離して歩いた。ちらっと見えた端末の画面にはサーモグラフィーらしき色彩が映っていた。  エデンの調査へ訪れたのが初めてというカナリアは、既に捜査に熱中していた。あの常識離れした好奇心と知識欲は健在のようで、それどころか昔よりも増しているかもしれなかった。  しきりに周囲の卵を見回しては、突然立ち止まってしゃがみ込み、端末をいじってはまた歩き出す。  ああ、なんか懐かしい感じだと、オウルは思った。  オウルは辺り一面に張り巡らされた肉の帯を眺めた。オウルもここにくるのは初めてだ。噂には聞いていたが、まさか本当にこんな場所からアダムたちは生まれているとは。  カナリアが足を止めて端末をいじっていた。カナリアの横顔を見て、オウルは――昔のままなら、「そろそろだな」と思った。  するとオウルの予想通り、カナリアは突然話し出した。 「ここは『アダムの巣』と呼ばれることもあるけれど……正確には、アダムの〝巣〟ではないわ」  カナリアはある程度集中力が高まると、作業と並行して口を動かし始める。カナリアは大変器用で、話しながらでも支障なく手を動かすことができる。  むしろ手作業の精度は上がるようで、本人曰く、回転力を上げ過ぎた頭のエネルギーを喋ることで発散し、必要以上の力を作業に注がないようにしているのだそうだ。  天才過ぎてわからない、とオウルは思う。要するに頭の良さが有り余っているということなのだろうけれど、常人とはちょっと次元が違い過ぎる。  昔から、勉強や作業に没頭する傍らで、ベラベラと喋るカナリアにオウルは付き合わされたものだ。学生時代、オウルはカナリアに余った頭の発散材料としていいように利用されていたのである。
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