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初めてカナリアに古典を教えたとき、あんなにもお喋りしていて勉強になっていたのかと疑ったが、カナリアはオウルが教えた内容を完璧に覚えていた。放課後彼女の勉強に付き合っているうちに、オウルは彼女のその特殊な集中技法に気が付いた。
やはりまだ変わっていなかった。今でもカナリアは、集中するほどに誰かに話しかけるのだ。そして話の内容はだいたい、カナリアが没頭している作業に関係することだった。
受験勉強の時はひどかったなあ、とオウルの苦い思い出が蘇る。猛烈に喋るうえに何のことを話しているかわからなかったのだ。しかも返事をしなければ怒るし、作業を継続しながら会話が成立するのだから本当に恐ろしい。
「どうしてか、知ってる?」
端末を見ながら、声だけをオウルに向けてカナリアは言った。オウルは卵を眺めて答えた。
「卵はあるが、生まれたアダムは1匹もここに留まらないからだ」
端末の画面をタップし、カナリアは言った。
「そうよ」
アダムの卵は薄い肉を張った2メートル余りの楕円形で、無数の血管に囲まれ、胎動のように脈打っている。なかには2メートル以下の小さなものもあり、比較的新しい卵だと思われた。
「アダムは生まれるとすぐにここを離れて活動を始める。そしてここに戻って来ることはないわ」
特殊部隊が研究チームの護衛をしているのは、エデンにいるアダムから守るためではない。護衛部隊の殲滅対象は、今まさに卵からかえるかもしれないアダムだ。
充分な凶暴性を備えて生まれてくるアダムは、誕生して間もなく人を襲い始める。そこにある卵から今この瞬間に新たなアダムが生まれる危険性からカナリアたちを守るのが、オウルの仕事だった。
「アダムには仲間意識がないとされているわ。同族が生まれるこの場所を守るために残るアダムが一匹もいないことも、そういわれる根拠ね」
オウルたち対アダム戦の訓練を積んだ兵士たちは、アダムの習性を学んでいる。その項目にはカナリアが話すアダムの特性ももちろん含まれていたし、オウルは実戦経験でそのことを身をもって知っていた。
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