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アダムの狩りは、あくまで単騎で行われる。
同時に複数体のアダムによる襲撃が起こることがあるが、それはたまたま近くにいたアダムたちが同じタイミングで同じ場所に現れたというだけで、彼らに結託するような意図は全くない。
戦闘もまるで連携など無視しており、個々が勝手放題に暴れまわる。同じ獲物を襲っても取り合いになるということもなく、一方が獲物を捕食し始めると、もう一方は別の獲物を求めて離れて行く。食事を分け合うといった概念もまるで存在しないのは、そもそも捕食自体に執着がないことも理由として挙げられるだろう。
ただ、アダムはアダムを襲わない。アダムにとって同族は、この世で唯一捕食対象から外れ、かつ徹底的に互いに無視し合う存在なのだ。
あまりにも奇怪で、理解しがたいほどいびつだ。新しく生まれる同族を守ることを全くしないというのは、生物の在り方として信じ難かった。
「ここはアダムの住まう場所ではなく、あくまで生まれる場所。アダムにとっての苗床に過ぎないの。だから正確にはここは〝巣〟ではない」
カナリアは手近な卵の前にしゃがみ込むと、ショルダーからキッドを取り出した。注射器が見えたので、オウルはカナリアの傍に歩み寄った。
「あまり刺激は与えるなよ。何が起こるかわからない」
「わかってるわ。ちょっと刺すだけよ。大丈夫、子どもでも泣かない極細の針だから。これで反応するなら、砂ぼこりだけでも飛び跳ねることになるわ」
アダムの卵の損壊や切開は、今調査では禁止としている。機材が充分ではないのに加え、エデンの調査はまだ不十分で、どんな刺激がどんな影響を与えるのかまったく予想ができなかった。
卵に注射器を刺しながら、カナリアは話した。
「アダムはここを故郷とすら思ってないのかもしれないわね」
「……そうだな」
オウルの脳裏に、牙を剥いて向かってくるアダムの姿がフラッシュバックした。
「……そうだろうな、あいつらに、そんな感覚なんてないだろうな」
「………」
あれは……やつらは、ただの獣だ。
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