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カナリアの注射器が、卵から抽出された赤い液体で満たされていった。注射針を引き抜くと、カナリアの言った通り刺した場所からは一滴も血は零れなかった。
もう一本の注射器を刺そうとしたとき、卵がどくんと大きく脈打った。カナリアが手を止め、オウルは銃を構えた。
沈黙して暫く待ったが、それ以降卵に特別な変化は見られなかった。
端末で卵を注意深く観察してから、カナリアはもう1度注射器を刺し込んだ。
卵を覆う血管から血液を採取しながら、カナリアは言った。
「便宜上、この球体はアダムの卵と呼ばれているけれど……これも正確な呼び名ではないとわたしは思っているわ」
視界の隅で、別の卵が、先ほど目の前の卵がしたのと同じようにどくんと脈打った。それはまるで――
「胎動によく似ているわ」
「………」
「というより、胎動そのものね」
薄い肉の内側で蠢くものを、オウルはじっと睨みつけた。銃を握る手に力が入った。
「確かに卵という表現は適切だけれど、彼らがひとに似ている以上、別の表現をするのが適格だとわたしは思うの」
採取した血液を小型冷却パックにしまい、カナリアは端末を手に立ち上がった。
「アダムにはへそがあるの。あなたも知っているでしょう?」
「……うん」
「へそがあるということは、胎児の段階でへその緒から養分を得ていたということ。この球体のなかはひとの子宮とよく似た環境をしていて、アダムは胎児の状態で、この中で成長する」
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