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白鳥医師はオウルの視線から逃げず、まっすぐ目を合わせて話した。
「わたしの能力が低いばかりに、申し訳ありません。現場で応急処置をされ、ここに運び込まれた時にはもう厳しい状況でした。正直言って、命が助かったことが奇跡に近いです。あなたのタフさにもかなり助けられました。」
オウルは戦場でのことを覚えていた。あの時確かに死を覚悟した。
「もし……」
白鳥医師は淡々とした口調のままで言った。
「もし、わたしが戦場にいれば――」
「先生」
オウルは白鳥医師の言葉を遮った。
白鳥医師の業務的な口調が、決して冷たいわけではないことがオウルにはわかった。彼女の立場はつらいものだ。何かを治すためには、別の何かを犠牲にしなければならないことがある。そこに手を下す憎まれ役を、彼女は引き受け続けているのだ。
いままで、彼女は何度同じことを患者に告げただろうと思った。そのたびに気持ちを動かされていては、心がもたない。だからきっと、白鳥医師はあくまで業務的に向き合うことに徹することにしたのだろう。たとえ冷徹でも、現実的に患者を救うための、彼女なりの処世術なのだ。
オウルは寝たままで頷いて、言った。
「ありがとう。助けてくれて」
「………」
白鳥医師は無表情のままカルテに目を落とした。
「いえ……こちらこそ、生きていてくれてありがとうございます」
施術内容の説明を聞き、オウルは自分がどれだけ死の淵を彷徨ったのかを思い知らされた。実に5日間、オウルは眠っていたという。にも関わらずこれほどしっかり白鳥医師の話を聞けるのは、眠っているあいだに体力がある程度回復していたからだった。
ひと通り話が終わると、白鳥医師がカルテからちらっとオウルのことを覗き見ていた。オウルは枕の上で首を傾げてみせた。
「なにか?」
「いえ……」
あくまで無関心そうに、白鳥医師はカルテを眺めて言った。
「強いですね」
「……?」
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