chapter1-3. 傷痕

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 カルテをテーブルの上に置くと、白鳥医師はオウルの枕もとに歩いてきた。白衣のポケットに手を入れて、白鳥医師はオウルを見下ろした。  白鳥医師は平淡な声で言った。 「軍人でも泣くひとはいるんですよ。子宮の全摘は」 「……ああ、そのことか」  オウルは頭を起こして、自分の体を見た。  白鳥医師が訊いた。 「現実味がありませんか?」 「……そうかも」  枕に頭を乗せ、オウルは白鳥医師を見上げた。 「……なんでかな。自分でも意外なくらい、それほどショックじゃない。子どもがそんなに欲しくなかったからかな」 「……麻酔でまだボーっとしているんですよ」 「そうかもね」  オウルははにかんだ。 「泣いた方が可愛かったかな?」 「………」  少し間を開けてから、白鳥医師は口を開いた。 「あなたの上官から、あなたは捻くれ者だから、起きたら可愛くないことを言うと思うから注意して欲しいと言われました」 「………」 「ほんとうですね」 「……あなたも相当可愛くないな、先生。そういうことは言わないでおくものだよ」 「そうですか?」 「そうだよ」 「なら気を付けます。あなたも気を付けた方がいいです」 「そうだね。上官っていうのは、背の低い童顔だった?」 「ええ」 「大尉か。あの人が言いそうなことだ」  その頃オウルは既に、当時は大尉だった鷹木隊長の部下として任務についていた。  オウルに入院中の注意事項を手短に話すと、白鳥医師は病室から立ち去った。 「何かあったら呼んでください。ナースコールはそこです」 「尻が痒いとか?」 「それでもいいです。あとお小水とか」 「なるほど」 「あと、体力が戻ったから教えてください。あなたに会いたいという人がいるので」 「……わかった」  1人になったあと、オウルは暫く天井を見つめていた。  本当に、自分でも驚くくらい、動揺していない。実感がまだないからかも。  オウルはお腹に手を触れてみた。でも伝わったのは固定具の硬い感触だけで、お腹には触れなかった。  ……可愛くない、ね。たしかにそうかも。  自嘲気味に笑い、オウルは天井に向かって呟いた。 「泣いたっていいんだぜ、オウル」
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