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オウルの意識が戻った翌日。昼食を終えた頃だった。病室のドアがノックされた。白鳥医師は朝に回診にきたし、ナースも昼食を片付けてからは来ていなかったから、誰だろうと思った。
オウルが「どうぞ」答えると、ドアが開いた。病室はオウル1人だけの個室だった。
ドアが開くと、軍服姿の小柄な日本人が立っていた。歳のわりには童顔で、胸につけられた数多の勲章が驚くほど似合っていない。
ベッドに座るオウルと目が合うと、医者とナース以外で目が覚めてから初めて会う訪問者の鷹木大尉は、親し気に手を挙げた。
「よっ。起きたってね」
「ええ、大尉」
鷹木はベッドをぐるっと回って、窓側に立った。
「椅子はそこに」
「ああ、ありがとう」
ベッドの傍に椅子を置きながら、鷹木はオウルに尋ねた。
「座っていて大丈夫なのかい?」
「ええ、寝ているだけじゃあ退屈ですしね。窓の外が見えない」
「君らしいな。ちょっと安心した」
オウルの下半身を拘束していたベルトなどは既に取り払われていた。戦場で意識を失った兵士が、戦闘中の記憶を持ったまま目覚めた場合、突然暴れ出すことがあるので、傷口を保護するための拘束具だった。
絶対安静という白鳥医師からの厳重注意を受けて、あの窮屈な固定具は外してもらった。下の始末をするにもあれは邪魔で仕方がない。
椅子に座ると、鷹木は患者服姿のオウルをぐるっと見て回した。
「調子はどうだい」
「快調です」
「それはよかった。相変わらず頑丈だね」
「私に会いたい客とは隊長ですか?」
「? いいや、違うと思うな。今日は勝手に来たから」
「勝手に」
「その客はたぶん……鴨居兵長だろう」
「ああ……」
オウルの反応を見て、鷹木は何かを察したようだった。鷹木は柔和な表情のままだったが、微かに声が低くなった。
「君が寝てるあいだ、あいつは何度もここに通っていたよ。君が起きてることももう知ってると思う」
「そうですか。手間をかけさせて申し訳ないですね」
鷹木が何も言わずにオウルを見ていた。オウルは首を傾げた。
「なんですか?」
「いや。君はそう言うよなって……思っただけだ」
「?」
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