chapter1-3. 傷痕

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 オウルに比べれば遥かに軽傷だが、鷹木も先の戦闘で負傷していた。頬にガーゼが貼ってあり、体の動きが僅かにぎこちないのは、脇腹の辺りに補助帯をつけているからだと思われた。  鷹木が着ている迷彩柄の軍服が、オウルの目に留まった。 「なぜ軍服を?」 「あの戦いの報告を、本部にね。本当は私も休ませてもらいたいんだが。死傷者が多かったから、ちょっとややこしくてね」  首の後ろの辺りを手でさすって、鷹木は言った。 「すまない。憔悴してる君にする話じゃないな」 「いえ、かまいません。死者はどれくらい?」 「……体が治ってからでもいいだろう」 「大丈夫です。むしろ、ずっと聞きたかった」 「………」  鷹木がため息を吐く理由が、オウルにはわからなかった。 「参ったね。全く君は……」  鷹木は視線を足下に落として話した。 「死者は25人。集団で現れたアダムは全て殲滅したが、こっちも相当痛手だ」 「うちの隊で死者は?」 「聞くのかい」 「ええ」 「中尉と曹長が戦死した。2人とも即死だったよ。退院したら挨拶にいくといい」 「そうでしたか」  鷹木は随分と、そのことをオウルに話すことが嫌そうだった。時折、鷹木は心底呆れた顔でオウルを見ることがある。  オウルの膝の上に置いた自分の手を見下ろして言った。 「中尉は、結婚していましたよね」 「ああ、奥さんにも挨拶してきたよ」 「大丈夫でした?」 「大丈夫、とは言えないな……」 「大変でしたね」 「君ほどじゃない」 「……その後、アダムの襲撃は?」 「ない。わたしらの見解では、長期間偶然行動をともにしていたアダムの1団が、たまたま駐屯基地の近くを通ったのだと思われる。総勢17体のアダムがともにいることは珍しい。ヤツらは団結はしないから、個々の行動規範が重なった結果だろう。ヤツらの行動理由は全て同じということだ」
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