chapter 0. オウルとカナリア

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 教室に2人、夕日が眩しいから真ん中のカナリアの席に移って、机をくっつけて向かい合い、古典の教材を広げた。 「春はあけぼの……」 「あけぼの」  カナリアが電子教科書から目を上げて、オウルに尋ねた。 「これの作者は男?」 「これは女。清少納言ね」 「わたし古典苦手だから……男がどういうものなのかわからないわ」 「ここ数世紀の文献なら難しくないけど」 「古典と聞いただけで拒否反応が出て……」 「難儀だな」  カナリアのノートは綺麗だった。整理されているのではなく、記入が少ない。必要最小限のことしか書かないタイプだった。前ページ白紙のオウルのノートには敵わないが。 「男のこと知りたいの? 気分悪くする人もいるけど」 「知りたいわ。どういうものかわからないから、意味不明な古典も余計に理解できないの」 「ああ、なるほど」 「オウルは古典を沢山読んでるから、昔いた男っていうのがどんなものだったか、よく知っているのでしょう?」 「まあね」 「教えてくれない? 知らないことがあるのは気持ち悪いわ」  オウルは電子教科書で男性について検索をかけたが、教材用の端末だと閲覧できる情報が極端に限られていた。 「そうだな、男ってのは……だいたい、アダムみたいな感じだ」 「それは性質の話? 見た目の話?」 「見た目の話だ。まあ、性質も似たようなものだと思うけどな」 「つまり男も女を捕食していたと?」 「それは違う。殺して食ったりはしなかった。違う意味で食うことはあったが」 「見た目ね……アダムの写真は少ないわね」 「だいたいそんな感じの体格で、ほとんど女と同じ機能。一番違うのは下半身で、早い話、女と対になる生殖器を持っていた」 「そうなの。動物と同じなのね」 「そうそう。その点、アダムには生殖器がないから、男の生まれ変わりっていう説は疑わしい。女性器もないから、アダムが何者なのかは本当にわからないな」 「ふぅん、意外ね」 「なにが」 「アダムについてもわりと詳しいのね。生物も得意だったり?」 「いや、アダムのことだけだ。興味のないことは覚えられない」 「アダムには興味があるのね」 「そうだね、先生のつまらない話よりは興味がある」
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