chapter 0. オウルとカナリア

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 他の教科は、どれもどうでもいいことばかりだ。歴史は生きていれば耳にする。数字は使うものだけ身につければいい。言葉など伝われば充分だ。こんな場所に閉じ込められてまで、教わることじゃない。 「アダムにちんこでもついてて、ひとを犯して回ってるってんならわかるんだが、ただ殺して喰ってるだけだからな。知能も高いといっても人間的じゃないだろ?」  ただ体の構造がひとに似ているのはなんとも不気味であり、それがかつての男に近いというのが、現代にとってはあまりに不快だった。 「ちんこ?」  カナリアがきょとんとした。 「ん?」 「ちんこってなに?」 「ああ、penisの俗称だ。古典ではよく出てくる」 「へえ、そうなの。ちんこね」 「まあ、実物は見たことないわけだが」 「ちんこ」 「そう、ちんこ。テストには多分出ないぞ」 「ちんこ」  カナリアはくすっと笑った。 「滑稽な響きだわ」 「たしかに。うんこと似てるしな」 「ちょっと、下品なこと言わないでくれる?」 「ちんこもかなり下品な部類だからよそで口に出さない方がいいぞ?」  男という過去の遺物を淘汰している現代の教材に源氏物語を残しているあたり、日本人の強かさは流石というべきだろうか。  カナリアの知的好奇心は、オウルの数少ない知識を引き出し、いたずらに吸収していった。カナリアが知らず、オウルが知っていることが順調に減っていくのは悔しかったが、一種の爽快さのようなものがあった。  オウルは思っていたよりも、誰かと話したかったのかもしれない。もしくは、カナリアがひとに話させるのが上手いかだ。 「昔はひとも動物みたく交尾して、自然妊娠していたらしい。そうじゃないと、機械がなかった時代に子を産むことはできなかったしな」 「へえ、そうなの」  カナリアがペンの頭を顎にあてて言った。 「そういえば3年の先輩が、1年の子を妊娠させたって聞いたわよ?」 「………は? なんだそれ」 「最近、自然妊娠するケースが増えているらしいわよ」 「いや……いやいやいやいや」
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