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31 10月の宴 22【瀬口】
そいつは、中学の同級生だった。
高校が別になって全然会えなくなったけど、小学校から一緒で一番長い付き合いの友人だ。
「懐かしい」という表現は少し大袈裟かもしれない。
最後に会ってからまだ何ヶ月も経ってないから。
でも、それまでは毎日会っていたんだから、全く会わなくなって久しぶりに顔を見たら、やっぱり懐かしく思えてしまう。
嬉しくなって走り寄ったオレを見て、久しぶりに会った友人の篤士は屈託なく笑った。
「奈津ー、久しぶりだなぁ」
中学の時から変らない笑顔でそう言う。
卒業してからそんなに経ってないんだけど、全然会ってなかったから反応がつい大袈裟になってしまう。
「中学卒業以来だっけ?」
「んな事ねぇよ。ほら、夏休みちょい前くらいに地元の駅で会っただろ」
オレが忘れていた事に少し不満っぽく顔を顰めて、それでもすぐに「な?」と笑う。
そっか、そっか。
言われてみれば、そんな事もあったかも。
「あー、会った会った」
乗っていた電車が一緒だったらしくて、学校帰りに改札通った所で偶然ばったりと会ったな。
それにしても、やっぱり結構会ってない。
夏休みに遊ぼうとか言ってたけど、それも結局無かったしな。
篤士が部活やらバイトやらで忙しくて、なかなか暇が合わなかったんだよな。
ふと、篤士がこっちを見て何か言いたそうにしている。
「奈津、背縮んだ?」
ジッと人の事見て、何を言い出すかと思えばっ。
久々に会ってそれかよっ。
「縮まねぇよ! むしろ伸びてるっ」
「そっかー?」
と、疑うように首を斜めにしてわざとらしく目線を合わせようとする。
ムカツクー。
「篤士が伸びすぎなんだよ。前はオレとそんなに変らなかったのに」
小学生の時は、オレの方が高いくらいだったんだぞ。
拗ねた振りをして言ったオレの頭を、呆れたような表情の篤士が小突いた。
「オイオイ、それは何年前の話だ。中学卒業ん時には既に目線違ってなかったか?」
「うるさいなぁ」
中学の三年間で、気付けば見上げるくらいになりやがって。
しかも、まだ伸びているっぽいのが嫌な感じだ。
「奈津の場合は、こんなもんでいいんだよ」
ポン、と手がオレの頭の上に乗る。
何だよ、もう。
オレの頭は、そんなに手を乗せたくなるような所にあるのかよ。
「その体型で縦に伸びてもバランス悪いぞ」
それはフォローか?
全然ありがたくないぞ。
「てか、『こんなもん』って…」
その言い方の方が引っ掛かる。
オレの身長って「こんなもん」なのか。
「そー言えば、一人で来た、って事はないよな」
篤士の掌の下から周囲を見回して、辺りに知り合いらしい人がいないのを確認した。
見つけた時から今にいたるまで、今日の篤士は一人だ。
あんまり一人で行動することの無い奴だから珍しい。
「そんな寂しい真似するかよ」
グッと頭の上の手が押すから、反射的に篤士の手から逃れて自分の頭を撫でてやった。
いきなり力入れるなよな。
「向こうに友達がいる。俺は奈津を見つけてこっち来たんだ」
篤士の指した先には男女数人の集団がいた。
多分、同じ高校の友達なのだろう。
オレの知ってる顔は一人もいなかった。
「なぁ、今ヒマ?」
篤士の友人の集団を見ていると、ふと思い出したように訊かれた。
「何で?」
「ヒマだったらちょっと案内してよ。やっぱ内部に詳しい奴がいた方が回りやすいし」
それは尤もだ。
気軽に「いいよ」と快諾しようとして、すっかり忘れていた事を思い出した。
「ごめん。オレ、これから校門の受付の当番なんだ」
色々な人が行ったり来たりして、忘れていた。
ヤバ。
もう、今すぐにでも行かないとヤバいかも。
「当番?」
「実行委員だから、オレ」
「マジで? 大丈夫か?」
ジッと真面目な表情で訊いてくる。
「何がだよ」
きっと、頼りないって言いたいんだろう。
大きなお世話だ。
「それなら仕方ないか」
何に対して「大丈夫」なのかは言わず、あっさりと諦める。
でも、オレだって、久しぶりに会ったのにこれだけっていうのは寂しい。
「どれくらいいる予定? 当番は一時間くらいで交代だし、その後でよかったら案内してやってもいいぞ」
どうせ当番の後は暇になる予定だったし。
塚本を探して一緒にいようかと思っていたけど、別に約束している訳でもないから。
ちょっとくらい篤士に時間を割いても全然構わない。
「…って訊かれてもなぁ」
オレの提案に、篤士は困ったように頭を掻いた。
「じゃあさ、それ終わったら連絡して。んで、俺らがまだいたら合流って事で」
友達と一緒に来ているんだから、他の人の都合もあるのだろう。
「分かった」
「俺の連絡先、知ってる?」
当然知ってるよ。
でも、わざわざ確認するって事は、もしかして会ってない間に変ったのかな。
と、いう意味を込めて答える。
「変ってなければ」
「変ってたら教えるって」
苦笑する篤士を見て、言い方がどこか変だったらしいと気付いた。
「今の言い方、誠人っぽいよ。一緒にいすぎて感染ったんじゃない?」
クスクスと笑いながらそう言ったのは、いつの間にか後ろにいた瞳子さんだった。
「瞳子さん?」
訊くまでもなく瞳子さんなんだけど、訊かずにはいられない。
あ、そっか。
今日は別に、瞳子さんがここにいてもおかしくはないんだった。
でも、だったら、もうちょっと驚かない登場の仕方をして欲しかったよ。
「近く通りかかったら、なっちゃんが知らない男と話をしてるから気になってさ」
「そうそう」
瞳子さんに続いて、口々にそう言う声がした。
うわ。
瞳子さんが来た時点で予想はしてはいたけど、安達と黒見もいるよ。
何か、ヤな予感が…。
この集団相手だと、絶対オレが負ける気がする。
別に勝負をしている訳じゃないんだけど、「負けた」って気になるんだよな。
苦手だ。
「友達?」
知らない人間が出現したから、篤士がそう訊いてきた。
それを聞いた安達が身を乗り出して答える。
「ともだち、ともだち」
「先輩、と呼んでくれても構わないけど」
安達の後に続いた黒見のセリフは、「先輩」の部分に音符が付くんじゃないかってくらいの弾んだアクセントが付いていた。
確かに先輩には間違いないんだけど…呼びたくないなぁ。
その前に、友達だったのか?
あ。
ふと、三人の後ろに塚本を見つけた。
どうやら、今までこの三人と一緒にいたらしい。
塚本とは友達なんだから別に変じゃないんだけど、瞳子さんも一緒だったんだよな、と思うと何も無くてもちょっとなぁ…と思ってしまう。
でも、今日は塚本と全然会えてなかったから、この距離でも顔が緩んでしまって恥ずかしい。
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