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「ちょっとした脳震盪起こしただけだから、全然元気なんだって」
保健室のベッドにいたのは安達だった。
そうか、エースケって安達のことだったのか・・・。
「塚本はともかく、なっちゃんが見舞いに来てくれるなんて感動かも」
いや・・・安達だって知っていたら来なかったよ。
「仲良くなったんだな、安達と」
意外そうに塚本が言った。
物凄い誤解。
さっきオレが「付いていっていい?」と聞いた時に、塚本が不思議そうな顔をした理由が分かった。
「全然」
首を横に振って否定した。
仲良しになってたまるか!
「えー、親友じゃないのー?」
「誰が!?」
「俺となっちゃん」
へらりと笑っていい加減なことを次から次へと言ってくる。
第一印象が悪すぎるから、こんなふざけたお調子者だと分かった今でも、安達のことはいまいち好きになれない。それは仲井も同じで、一緒につるんでいる黒見も大差無い。
「それはそうと、今は弓月に近寄らない方がいいぞ」
急に真面目な表情になった安達が声を顰めて言った。
「彼織ちゃんと喧嘩したって?」
「それは俺たちの憶測。でも間違ってないと思う」
後頭部を擦りながら安達が言う。
「塚本はカオリちゃんと同じクラスで、闇討ちされてもおかしくないくらい危険なんだから、今の弓月の前に面出したら確実に絡まれるな」
「だな」
「下手に校内うろつかない方がいいな。教室が一番安全かも。弓月はカオリちゃんの教室には行かないし」
相変わらず弓月さんは恐れられている様子。
噂を聞いていると、それも無理ないとも思うけど。
「何で教室に来ないの?」
気になったので訊いてみた。
言われてみれば、相当藤堂に執着しているという弓月さんが教室に来た事は一度もない。
学校で二人が話をしている所も見たことがなかった。
「カオリちゃんが、学校ではむやみに絡んでくるな、って言ったんだよ」
それは凄い。
「教室には絶対に行かない、って約束させられたらしい」
こんなに色々な人が恐れている弓月さんに対してそんなことが言えるなんて、藤堂って結構凄い奴だったりするかも。
「俺、そろそろ教室戻るわ」
そう言って、安達は保健室のベッドから這い出た。
「大丈夫なのか?」
「吐き気も無いし、大丈夫だと思うけど」
「勝手に判断するな」
口を出したのは、職務中の養護教諭だ。
ちなみにこの養護教諭、授業中に俺たちが見舞いに来ても何も言わなかった。
塚本を見て、「今日はお前じゃないんだな」と笑っていただけだ。
こんな所にまで顔を知られているとは。
「ダメですか?」
不満気に安達が言うと、養護教諭は近寄って軽く安達を診た。
「まぁ・・・お前が元気だって言うならいいけど」
特に問題はなったらしく、あっさりと許可が出た。
「具合悪くなったらまた来ますよ」
「その時はここじゃなくて病院に行け」
素っ気無く言って、養護教諭は仕事机へと戻っていった。
「じゃ、お世話になりましたー」
安達が無駄に明るく言った。
本当に元気だな。
実に元気な安達は、保健室を出て早々に教室へと行ってしまった。
意外にも授業を重視するタイプだったようだ。
「元気そうだな」
塚本もオレと同じことを思ったらしい。
「無駄足」
詰まらなそうに塚本が呟いた。
もっと重傷なのかと思っていたのかもしれない。
「でも元気なんだからいいんじゃない?」
それに、無駄足と言うならオレのが無駄度は上だと思う。
知らなかったとはいえ、安達の見舞いに付いてきて授業サボったのだから。
「これからどうする?」
保健室からオレたちの教室のある棟に戻ってきた時、塚本がぽつりと言った。
「授業出る?」
「今から?」
何だかんだいって、授業が始まってから結構経っている。
今更教室に行くのは気が引けるって言うより、面倒。
この考え方は塚本っぽくて少し危険だな。
「塚本はどうするの?」
きっと塚本は授業に出る気は無い。
迷惑じゃないなら一緒にいたいなぁ、という意味を込めて聞く。
「寝る、かな」
やっぱり、と苦笑してしまう。
でも今日は生憎の雨。
「屋上はダメだろ」
「どっか探す」
大した問題ではないらしい。
「来るか? 瀬口も」
まるでついでのように言われたけど、それでも誘われるのは嬉しい。
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