ただ、ひたすらに

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 ははは、と笑ってみるものの、空笑いなそれに(むな)しさしか残らず、溜め息を()けば、白く染まった息が空へと消えていく。 「……帰ろう」  このままずっと待ち続けて、惨めな気持ちになるよりは、家でのんびりしていた方がいいのかもしれない。  きっと、友人たちとパーティーをすると伝えておいた弟には驚かれるだろうけど、早期解散したとでも言えば、納得してくれるはずだ。もしくは、何かあったのだと察するかもしれないが、それでも良かった。 「何が良いかな」  帰ろうと思って、足を翻せば、視界に白い『何か』が写り込む。 「え――」  嘘か何かだと思いたかった。  だって―― 「ちょっ、ストーーーーップ!!」  だって、だって、だって……! 「何帰ろうとしてんの!? ずっと来るの、待ってたのに!」  慌てていたのか、白いコートだけを羽織ってきたらしい彼女(・・)に、困惑の表情を向ける。 「……えっと……そのコート、似合ってるね」 「そうじゃないよね!?」  何と言ったらいいのか分からず、見たまんまのことを口走ったけど、お気に召さなかったらしい。 「ねぇ、何で帰ろうとしたの? 私、ずっと待ってたのに」 「それは……」  邪魔したくなかったのと、待ち合わせ場所に誰もいなかったからだ。こっちは遅れていると思って三十分ぐらい待ってみたというのに、だ。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加