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「ありがとうございます。どちらの駐輪場でございますか」
20代前半だろう、眩しいぐらいキラキラした笑顔だ。
それにひきかえ私は、近所だからメガネをすれば良いじゃんと、ノーメイク。
髪も後ろで一つに束ねただけ。ジーンズにシャツ。トドメは足元のビーサンだ。
ハイブランドのパールピンクのペディキュアでビーサンでもおしゃれに見えるはずだと来てしまったが、冷静に足元を見ると、ただ血色が良い爪の人。という感じだ。
丸腰状態の抜け感ファッションが似合うのは、雑誌の中のモデルか、目の前の若い受付嬢のようなキラキラ女子だけだったんだ。
私のような地味な人間は、美という鎧を付けないと戦えないんだった。
コンプレックスという矢がグサグサ胸や、背中に刺さって、瀕死の落ち武者になっていた。
「そこの玄関を出て左のところです」
うつむいて早口でそう告げると、自己嫌悪の塊の由香は転がるようにサービスカウンターを離れた。
「ありがとうございました」
背後で、少し高い声が聞こえた。
「声まで可愛いなんて、ああ、もう」
すれ違う人が皆自分を嘲笑しているように思える。
脇目も振らず、早歩きで駐輪場に向かった。
由香の自転車のあたりを、下を覗き込みながらうろうろしている男性。
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