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「あっ、もしかして」
由香は駆け寄って
「タカノの本をお探しですか」
振り向いた男性を見て、息が止まった。切れ長の瞳、鼻筋がスッとしていて、薄い唇。振り向く瞬間に少し長い前髪が自然に左眉を隠してさらりと風に吹かれた様は、正しく王子様。
「そうなんですよ。ここに荷物置いた時に落としたのかと。本ありましたか」
笑うと端正な顔が、くしゃっとなるのもギャップ萌えだ。180センチはある男性を見上げて見惚れていたが、
「今、サービスカウンターに届けたばかりです。すぐに行かれたらいいかと……」
目をそらして事務的な口調で答えた由香。自分が今、落ち武者なのを思い出した。
ずっしり底が抜けそうなぐらい変形したエコバックを、前カゴに入れたら、自転車が悲鳴をあげた。
グランと自転車が左に倒れそうに
「あっ、やばい」
と思った瞬間。
王子が自転車の左にまわってハンドルを持って支えてくれている。間一髪で転倒しなかった。
「……すいません。ありがとうございます」
自転車を挟んで向かい合う由香と王子。
「たくさん荷物持ってらしたのに、こちらこそ本を届けてくださって、ありがとうございます」
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