きみのてのぬくもり

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わたしの一番古い記憶はがっしりとした母親の手と、キラキラと光るきみのまん丸い目だ。それ以前の記憶は、まるで自分の身体がバラバラであったかのように、あやふやで思い出せない。 母親はわたしをきみに読み聞かせた。母親がわたしのページをめくるたびに、きみは「わあ」と言って、色鮮やかな絵を見て喜んでいたのを覚えている。一匹のりすが、母親のもとを離れてから初めて胡桃をとり、なにも獲ることができなかった友と分け合うという、他愛もない話、それがわたしだ。わたしの自慢は最後のページ、分けあった胡桃を食べながら、りすとその友達が並んでまん丸い月を見上げるページだ。月はチーズのように黄色くてなめらかな表面をしているものだから、りすたちは「次はチーズが食べたいね」と言って笑いあう、そんな美しい一ページ。そうだ、きみの目は、あのお月さまと同じようにまん丸だった。 毎晩のようにきみは、わたしを母親のもとに持っていって「読んで」とせがんだ。母親は呆れながらも微笑んで「またその絵本? ほんとにお気に入りなんだね」と言った。     
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