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きみは自分の孫にもわたしを読んで聴かせた。そして「あなたのお父さんもこの絵本が好きだったのよ」と言った。その横で、すっかり大きく立派になった男の子が、「よしてくれよ母さん」と言って、照れ臭そうに笑った。幼い孫たちは、わたしの自慢のお月さまのページを見て、よろこんでくれた。
棺桶に入れられたきみはドライアイスのせいですっかり冷たくなっていた。棺桶を囲むきみの息子や孫たちは、みんな泣いていた。とくにきみの息子は鼻水すら流して泣いていて、頬を伝ってわたしの上に溢れてきた涙は信じられないほど熱かった。きみの身体が冷たいせいで、よけいにそう感じたんだろう。きみは安らかに笑っているように見えた。不思議なことだ、産まれてきた人間は大声で泣いて、まわりの人間は新たな命の誕生を喜んで笑う。そして人間が死ぬとき、まわりの者が泣いて、きみはほほ笑む。まわりの者が涙を落としながら、美しい花々を棺桶に入れていく。わたしもきみといっしょに棺桶に入れられた。きみの冷たくなったお腹の上に。
棺桶が閉じられ、わたしの視界は真っ暗になった。だがなにも怖いものはない、きみといっしょだからだ。
かすかに揺れながら、わたしたちは運ばれていく。最後に聞こえてきたのは、なにか重い扉が閉められる音だった。そして、きみもわたしも、かつてそうであったように、塵にかえる。
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