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東京見物
部長は、浅草寺近くの駐車場に車を止めると、仲見世商店街をのんびりと歩いた。
「外国の方もたくさん来てるんですね~」
私はキョロキョロと辺りを見回しながら言う。
「そうだな。
瀬名は、浅草、来た事あるのか?」
いつもは、はや足の部長が、のんびりと歩きながら尋ねる。
「入社してすぐの頃に、同期何人かと来ました。
田中君は地元なので、いろいろ案内してくれたんですが、私は後ろを付いて歩いてただけなので、どこをどう行ってそこに行ったのか、さっぱり覚えてないんです。
あ、なんなら、今から、田中君、呼びましょうか?」
私がスマホを取り出すと、
「いや、いい。
休日に上司に呼び出されて、東京見物の案内なんて、迷惑以外の何物でもないだろ?」
と部長は苦笑いをこぼす。
「そうですね。
っていうか、私はいいんですか?」
私は軽く怒って見せる。
けれど……
「瀬名は、呼び出されたわけじゃないだろ?」
と、部長に言われて、はたと気づいた。
「あ…、そうでした。」
どちらかというと、迷惑をかけたのは私の方。
「くくっ
お前、当分、禁酒な。」
部長は笑いながら言う。
「えぇ~!?」
そんなぁ……
「当然だと思うけど?」
部長は少し屈んで、私の顔を覗き込む。
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