家族の一冊

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老人はリビングのソファから外を見ていた。 膝にかけられた膝掛けは孫のお気に入りのキャラクターのイラスト。 外は雪がふわりふわりと舞うが息子夫婦が建ててくれた家の中は暖房の熱が家中を包み外の寒さを感じることはない。 「お父さん、おじいちゃんの絵本読んで!」 目に入れても痛くない孫の声が響く。 「またか!おじいちゃんに聞いてごらん」 逞しく育った息子の声。 「おじいちゃーん」 リビングのドアを開けて孫が老人に走り寄る。 「おじいちゃんの絵本貸して!」 老人はやんわりと微笑み孫の頭に手を置いた。 「いいよ。大事に読んでな」 老人は膝掛けをソファに置き、立ち上がってリビングの本棚へとゆっくり向かう。 誰でも手に取れる場所にある本棚にある一冊の本。 何年も何十年も誰でも気軽に取れる場所にあるというのに家族は必ず老人の許可をとる。 老人には、それがたまらずに嬉しいことなのだ、
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