第11章 先輩と家族

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「ごめん」 私が保冷剤を渡すとそんな声が聞こえた。 「先輩...?」 おかしい。 明らかに私への態度が先輩らしくない。 そう思って先輩の頬に指を伸ばす。 「...っ!」 その瞬間ビクッと肩を揺らすと私の手から逃げるようにしゃがみ込んだ。 「先輩どうしちゃったんですか...」 どうしてそんな顔するの...? 怯えきった表情。 拒絶されたショックよりも初めて見る先輩の姿に驚きが隠せなかった。 「ごめん。何でもないから」 セリフと口調が全く合わない。 先輩の想いが感情に追いついていないようだった。 「何でもない訳ないです!今日は仕事休んで下さい」 「...本当に大丈夫だから」 そう言って先輩は呼吸を落ちつける。 「でも...」 「これ、ありがとね」 私が言い終わらないうちに保冷剤を持ったまま先輩は家を出ていった。 先輩の怯えたようなありがとうはただ苦しさだけを残して消えていった。 私はなんて声を掛けたらいいのか分からないまま動けずにいた。
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