第11章 先輩と家族

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「ただいま」 光と家の前で手を振って別れドアを開ける。 いつもは私が家に入るまで見送ってくれる光だけど、今日はその前に手を振ってしまった。 緊張していたんだと思う。 やっぱりいつもとは違う。 「先輩。おかえりなさい」 「佳奈...」 眠たそうな目を擦りあげた佳奈が玄関まで私を出迎えた。 「お疲れ様です。お風呂湧いてますけど...入りますか?」 遠慮気味にそう尋ねた佳奈が笑顔を向ける。 「...っ」 目が合った瞬間に気が付いてしまった。 いつから? 「先輩...?」 佳奈は俯いた私の顔を心配そうに覗き込む。 それでも私に触れない様に一定以上は近づこうとしない。 いったい、いつから私はこの子にこんな顔をさせるようになったのだろう...? 「大丈夫...だから」 そういうのがやっとで、これ以上喋ったら涙が零れてしまいそうだった。 「そう...ですか」 まただ。 以前の佳奈ならこんな所でくいさがる筈が無い。 松浦佳奈という女はもっと自信満々で意地悪でそれでいて綺麗で真っ直ぐで。 いつも幸せそうに笑っている。 こんなふうに顔色を窺ったりなんか絶対にしない筈なのに。 「佳奈...ごめん」 「先輩...?」 私はそれだけ言うとそのままお風呂場に向かった。 ー堪え切れなかった涙は多分佳奈に見られてしまった。
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